てつがく屋(旧学舎フィロソフィア227)

香川県で哲学カフェや哲学読書会など文学系サロンを開催しています。

探究心を育てるこどもてつがく

 

読んで一緒に考える探究心を育てる こどもてつがく

2019年11月2日 丸亀市飯山総合学習センター(飯山図書館)にて、小学生を対象にした「こどもてつがく」をしました。

当日は5人のお子さんが参加してくれました。その内、4人は小学2年生、1人は幼稚園生でした。

 

f:id:philosophia227:20191107111207j:plain

こどもてつがく飯山図書館2019.11.02

※写真はプライバシーのため顔に猫のスタンプを貼っています。


「猫と僕の対話」

 永井均さんの『子どものための哲学対話』を参考に、文章をより簡単にして、イラストを入れたプリントを持って行きました。

文章は、猫と僕の対話で構成されています。テーマは「友達」と「後悔」の二つに絞りました。内容について少しご紹介しておきたいと思います。

 

友達って必要?

文章は「友達って必要だと思うかい?」と言う猫の質問から始まります。男の子は、「友達は絶対に必要だし、人間には自分のことを分かってくれる人がいなければ生きていけないのだ」と話します。一方、猫は、「自分のことを分かってくれる人がいなくても生きていけるということが本当の強さで、そのことを人間はもっと学ぶべきじゃないか」と言います。

 

後悔しちゃうこと

文章中、男の子は、「自分なりに一生懸命やったのだけれど、後になって、後悔しちゃうことがある」と話します。すると、猫は、「後悔などしなくてもいいよ。その時はそうするしかなかったのだからそれでいいのだ、と自分自身に言ってあげると良い」と言います。

誰かがそう励ましてくれれば、安心できると男の子は言いますが、猫は、人に期待しても無駄なのだと言います。自分の場合は、自分自身で「これでいいのだ」と思えることが、本当の強さではないかと猫は男の子に問いかけます。もしも、そこまで強い自分になれなかったとしても、人にそう言ってあげることは簡単にできるだろうし、自分自身が本当に心から「あの時はあれでよかったんだ」と信じることもできるようになると、猫は言います。

 

参加した子どもたちの考え -友達について-

まず最初に、「友達について」のプリントを読みました。

感想や考えを求めると、しばらくみんな黙っています。

ある男の子が口を開きました。

最初の一言が「友達って何なん?」でした。

 

素晴らしい質問です!友達って何なのでしょう?

 

すると、次に「友達は遊ぶための道具」という答えが出てきました。

なるほど。人を手段や道具として用いるということはあり得そうです。

ずっと恥ずかしそうにうつむいていた女の子が、とても小さな声で「それは違うと思う」と言いました。

 

「どう違うのでしょう。もっと教えて?」と聞いてみると「友達はロボットじゃないから。人間だから」と答えてくれました。

先ほど「友達は道具」と答えたお子さんが、その言葉を受けて「友達は道具じゃない。人間だから。人間にはロボットと違って命があるから道具じゃない。」と答えてくれました。

 

「物と人間」の違い、「人と道具」の関係性はとても面白いテーマです。

 

「じゃあ逆に、友達じゃないってどういうこと?」と聞いてみると、「一緒に遊ばなかったら友達じゃない」という答えが返ってきました。他にも「相手が僕のことを知らなくて、僕が相手のことを知らなかったら、友達じゃない。世界に絶対に1人はそういう人はいる。」という答えもありました。

 

「お互いを知る」ということと「友達になる」ということは、関係が深いのでしょうか?

 

「じゃあ、どうやったら友達になるの?」という質問には、「友達は作るもの。一緒に遊んだり、一緒に何かをしたら友達になる。」と教えてくれました。

 
「友達って必要?」と聞くと「いらんときもある。絶対一回はある。ゲームする時は一人でするし、一人で遊ぶこともある。友達に仲間に入れてもらえなかった時は一人で遊ぶ」との意見に、手を小さくあげる女の子がいました。

女の子は「カルタやトランプする時は友達が多いほうがいい。カルタは読む人がいるし、トランプは引く人がいる」と答えてくれました。

  

残り時間15分となったところで、「なあ、次のやつやらんの?」と一人の男の子が私に聞いてきました。

「次のやつ」とは、「後悔しちゃうこと」をテーマにしたお話です。

子どもたちの集中力も途切れ途切れだったので、今回は「後悔しちゃうこと」はやらなくてもいいかな、と私は思っていました。

子どもたちは、配ったプリントを全部使っていないということに気がついていていたのです。

「本当にやりたい?」と聞くと、「ウン」と返事が帰ってきました。

「やりたい人どのくらいいる?手をあげて教えて」と聞くと、4人の子供達が手をあげました。
そこで、「後悔しちゃうこと」を読むことにしました。

 

子どもたちの考え -後悔について-

「後悔しちゃうこと」のテキストを読み始めるやいなや、すぐに男の子が手をあげて「後悔することある!めっちゃある!」と 話し始めました。

 

「ちょっと待って、最後まで読ませて」と言っても、もう男の子のお話は止まりません。

「めっちゃ後悔する。夜になったら後悔する。あん時あんなこと言わんかったらよかったなって思う。でも、言葉考えてた時に、友達に『はよ言えや』って、言われるから、言ったら、ちょっと違う言葉言ってしまって、夜になったら後悔する。それから、あん時ああしとったら、一緒に遊べとったのにな、って思うな。」

 

どうやら、夜に思い悩むことがあるようです。まるでその時のことを思い返しているかのように、今までとは違ったトーンで男の子は話してくれました。

それを聞いて力強く頷く女の子に「後悔することあるの?」と聞くと、「ある」と答えてくれました。

もう一人の女の子にも聞いて見ましたが、彼女は首を傾げていてよく分からないといった様子でした。

「後悔するのは夜なの?」と聞くと、「うん。夜。」と二人から返事が帰ってきます。

  

プリントを読んでいる間、子どもたちがどのくらい聞いてくれているのか分からないのですが、それでも、気になる文を拾ってくれているようです。

 

「猫が後悔なんてする必要ないよ」と言っているところを読むと、私の言葉を遮るようにして、先ほど後悔することがあると話していた男の子が「それでも後悔する!」と強く主張しました。

どうしようもなく後悔してしまう気持ちを、この猫は分かっていないのだ、と男の子は思ったようでした。そして、そう感じたのは、もう一人の女の子も同じだったようです。

 

彼女は「猫だから、人間の気持ちが分からない」と言いました。

そして男の子も「この猫、後悔したこと無いんや。猫は人間とは違うから、人間の気持ちが分からない。だから、(猫は)さっきも友達が必要ないって言ったんだ。」と最初の方のページに戻って、その箇所を指さします。

 

これを境に、この猫はおかしいのではないか、という話になります。

「猫が人間の言葉を喋るの。この猫怖い。」と女の子。

「そう。猫が日本語喋るなんて狼男と一緒。猫と人間は違う生き物だから、猫は人間の気持ちが分からない。」と男の子。

 

どうしようもなく心に湧き上がってくる後悔の念、それを「大丈夫」だなんて言われても、「ちっとも大丈夫なんかじゃない」というのが「後悔」というものなのかもしれません。

二人のお子さんは、自分の実感とプリントの猫が言っていることは、違っていると感じたのでしょう。そして「この猫は後悔する気持ちを分かっていない」と思い、その理由を「猫が人間とは違うからだ」とし、力強く熱心に説明してくれました。

  

「猫は、赤ちゃんの時から、大っきくなってもこう(四つん這いのポーズ)、人間は赤ちゃんの時はこう(四つん這いのポーズ)だけど、大きくなったら二本足で歩く。それに、猫は、全部毛が生えとるけど、人間はここだけ(毛が生えるところをジェスチャー)だから、猫と人間は違う。」

 

そんな時に、別の子が小さな声で「あと5分・・・」と時間を私に伝えます。

 

「僕なぁ、犬が人間の気持ちが分かるとかいうけど、よく分からんなぁ。」と男の子。タイムキーパーをしてくれた女の子が、それに頷きます。

 

人間と他の生き物はどう違うのか。人間とは何か。人間は他の生き物と分かり合えるのか。そもそも「気持ちが分かる」とはどういうことなのか。

どれも更に深く探求できるテーマだと思います。

  

最後は、みんなで集まって挨拶をして終わりました。

 

 

まとめ 

子どもたちは、走り回ったり、突然ピッチャーになったり、じっとしていることがまだ少し難しいのです。

人見知りであったり、何を求められているのかまだよく分からなくて、黙ってしまう子もいます。

それでも、みんな自分の疑問や考えをちゃんと持っています。
うまく言葉にできない子もいるけれど、首を傾げたり、力強く頷いたり、短な言葉で表現します。
大人が当たり前の前提として読み飛ばしてしまうところにも、鋭く疑問を投げかけたり、実体験や実感にそくして考えています。今日初めて会った子どもたち同士が、一緒に考えや疑問を交わすことができるのは素晴らしいことだと思います。
回数を重ねてこどもたちが「こどもてつがく」に慣れてくると、もっと、聴く力、話す力、考える力がついてくるのではないかと、沢山の可能性を感じた時間でした。

第2回の開催のご要望は、「丸亀市飯山総合学習センター(飯山図書館)」まで。

 「こどもてつがく」の詳細はこちら